『日知録』易篇訳「九二君徳」
九二君徳
〔要旨〕
乾の九二が、臣下の位にも関わらず、君徳があるとされるのは、人臣は、まず人君となる徳を保持して、そうして理想的な君主となりえるからである。
〔原文〕
爲人臣者、必先具有人君之德、而後可以堯・舜其君、故伊尹之言曰、「惟尹躬暨湯、咸有一徳」。武王之誓亦曰、「予有亂臣十人同心同德」。
〔日本語訳〕
人臣というのは、かならず先ずつぶさに人君となる徳を保持し、そうした後に堯・舜のような理想的な君主たりえる〔であるから臣下の位である乾の九二に君徳があるとされるのである〕。それゆえ伊尹の言に「わたし伊尹と湯王は、みな純一な徳を身につけていた」とあり、武王の誓にも「予には主だった臣下が十人いるだけであるが、心も徳も一つにまとまっている」とあるのだ。
〔解説〕
前回の「六爻言位」では、顧炎武は、五爻を君の位、二・三・四爻を臣の位とし、初爻と上爻には君臣の位はないとした。乾の文言伝に、その九二爻辞の解釈として「易曰、見龍在田、利見大人、君德也」と、臣下の位であるはずの九二を「君徳」とする。ここでは、そのことを問題としている。