半知録

-中国思想に関することがらを発信するブログ-

2020-01-01から1年間の記事一覧

慶応大蔵『論語義疏』巻六について

『論語義疏』とは、中国南北朝時代、南朝の梁(502年 - 557年)において編纂された、『論語』の「義疏」(注釈書)である。中国では宋代以降に散佚したが、江戸時代の儒者根本遜志が日本伝来の旧鈔本を底本に刊行したものが清代に逆輸入された。その著者は梁…

顧野王『符瑞図』の構成

南朝の梁から陳にかけての人に顧野王(五一九年-五八一年)がいる。彼は、『玉篇』を編んだことでつとに有名である。そればかりではなく多数の書物を編纂しており、その中に『符瑞図』がある。『符瑞図』は、その名の通り、めでたいしるしである瑞祥につい…

ネットで『道蔵』

道教経典を集成したものに『道蔵』というものがあります。道教研究している人にとっては必需品ですね。 現存する『道蔵』は、明代に刊行された『正統道蔵』と『万暦続道蔵』を合わせたもので、その巻数なんと5485巻!洋装本では六十冊に収まっているようです…

『群書治要』についてーその③

hirodaichutetu.hatenablog.com hirodaichutetu.hatenablog.com かなり遅くなってしまいましたが、今回は「尾張本」の改変について具体的な例を挙げながらご紹介していきたいと思います(なお、各本の詳細については上引①②をご参照いただけますと、幸いです…

顔回の実直さ

孔子の高弟に顔回がいる。 顔回、字は子淵。そのことから顔淵とも呼ばれる。孔子より三十歳若かったという。 孔子に最も将来を嘱望されるも、孔子に先だって亡くなり、悲運な人物として知られている。孔子が顔回の死に際して、「噫、天 予を喪ぼせり。天 予…

蝶と蛾のはざま

・蝶と蛾の違いって何だろう? 蝶は綺麗で、蛾は汚い。 蝶は昼間に活動するが、蛾は夜に活動する。 蝶は羽を立てて止まるが、蛾は羽を広げて止まる 。等々。 しかし、分類学上、蝶と蛾は同じ鱗翅目で区別されない。 蝶と蛾を区分けしない言語だってある(フ…

『周易本義』と『原本周易本義』

『四庫全書』に『周易本義』と『原本周易本義』が一緒に収録されている。『周易本義』とは、朱熹の『易』に対する注釈書である。一見すると、『周易本義』と『原本周易本義』は、構成はやや異なるが、内容は同じようにみえる。しかし、構成が異なるだけで同…

『群書治要』についてー②

hirodaichutetu.hatenablog.com 今回は『群書治要』「尾張本」について略述して行きたいと思います。「尾張本」(或いは「天明版」)は天明7年(1787)に尾張で刊行された整版を指します。その刊行過程については、「尾張本」冒頭、天明七年林信敬「校正群書…

『群書治要』についてー①

『群書治要』とは唐初、唐太宗の勅命により魏徴らによって編纂された、全五十巻の「類書」*1である。『唐会要』によれば太宗が前代の諸王の得失を通覧せんがために、「六経」より「諸子」に渉ってそれらの事跡を蒐集させたものであると。つまり経・史・子の…

王引之は『秘冊彙函』を使っていた

王引之は、『秘冊彙函』を使っていた!だからどうしたと言われればそれまでですが、ちょっとした小話として聞いてください。 王引之(1766年-1834年)の著作に『経義述聞』があります。この本は、父である王念孫から伝え聞いたことを踏まえ、経伝の字句の訓…

虞翻の生没年に対する疑義

虞翻という人物を知っている人は少なくないと思う。三国志などのゲームに登場するからである。しかも、そこそこ強い。虞翻は、呉の孫策・孫権に仕えた人物である。虞翻の生没年は、ゲーム内や辞書でも164年-233年とされる。しかし、『三国志』呉書・虞翻伝を…

十翼の形成

孔子が作ったとされる、『易』の解説書、十翼が如何に形成されたのかのという話である。 十翼とは、彖伝上・下、象伝上・下、繋辞伝上・下、文言伝、説卦伝、序卦伝、雑卦伝の七種類、十部分の伝のことである。とりわけ彖伝と象伝が上下に分かれているのは、…

野間文史先生の学問とその人ーその四(完)

hirodaichutetu.hatenablog.com hirodaichutetu.hatenablog.com hirodaichutetu.hatenablog.com これまで三回に渡って微力ながらも「野間文史先生の学問とその人」を追ってきた。出生から、高校時代の蒲鉾屋さんへの下宿、下宿先のお兄さんのすすめで広大中…

卦辞と爻辞―『易経』の占文の起源

『易』の経文は卦辞と爻辞で構成されている。では、卦辞・爻辞は如何にして形成されたのか。今回は、その話である。 卦辞は、一卦の意義を総論した占辞である。彖辞とも呼ばれる。「彖」は「断」の意で、一卦の義を断定するという含意があるとされる。これは…

『周易』の成立

『易』は、いつ成立したのだろうか。今回はその話である。 『易経』は、「周易」とも呼ばれる。それは、周王朝の占い書であったとされるからである。「易経」よりは「周易」の方が古い呼称である。鄭玄は、「周」は「あまねく」という含意もあったとしている…