半知録

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『日知録』易篇訳「利用為依遷國」

利用為依遷國

〔要旨〕

益六四爻辞の「用て依るところを為し國を遷すに利あり」とは、安定した国でも有事の国でも、臣下が公正な判断で君主に告げたことにもとづき国を遷すことに利益があるということ。

 

〔原文〕 

在無事之國而遷、晉從韓子之言而遷於新田是也。在有事之國而遷、楚從子西之言而遷於鄀*是也。皆中行告公之益也。

  *「鄀」、原抄本は「郢」に作る。

 

 〔日本語訳〕

安定した国にあって遷都するのは、晋が韓献子の言に従って〔その必要性はないものの〕新田に遷都にしたのが、それである。有事のある国にあって遷都するのは、〔戦争で敗れ滅亡の危機を感じて〕楚の子西の言に従って鄀に遷都したのが、それである。みな「公正な判断でもって公に告げる」ことの益があったのである。

 

〔解説〕

 「無事の国に在りて遷る」の例証は、『春秋左氏伝』 の成公六年、晋人が絳から国都を遷すことを議論したとき、諸大夫は郇・瑕の地帯を薦めたが、それに対し、韓献子は郇・瑕の地帯は地形的によろしくないとし、新田を薦めた。晋の景公は、韓獻子の進言に納得し、晋は新田に遷都したことによる。

 「有事の国に在りて遷る」の例証は、『春秋左氏伝』の定公六年、楚の水軍が呉の大子終纍に敗れると、楚の国内は大いに危ぶみ、滅ぶことを恐れた。さらに陸軍を率いた子期も繁陽で敗れると、楚の令尹の子西は「今こそするべきことができる」と喜び、都を郢から鄀に遷し、政治を改革して楚国を安定させたことによる。