半知録

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『日知録』易篇訳「朱子周易本義」④

【要旨】

周易伝義大全』の程頤の『易伝』を除き去り、朱熹の『本義』を

残した本が現れた。しかし、朱熹が定めた古形がまた錯乱した状態に戻った。それら本が用いられ、朱熹が定めた古文『易』の形が世に行われていない現状を嘆く。

 

【原文】

而『大全』之本乃朝廷所頒、不敢輒改。遂卽監版『傳義』之本刋去程『傳』、而以程之次序爲朱之次序。【虛齋蔡清『易經蒙引』謂之今所竊刋行『易經本義』。 今四書版本每張十八行、每行十七字、而註皆小字、『書』『詩』『禮記』並同。惟『易』每張二十二行、每行二十三字、而『本義』皆作大字、與各經不同、明為後來所刻。是依監版『傳義』本、而刋去程『伝』。凡『本義』中言「程傳備矣」者、又添一「傳曰」、而引其文、皆今代人所爲也。 坊刻擅改古書、宜有嚴禁、是学臣之責。朱子「詩集傳序」、蔡仲黙「書集傳序」、今南京刋『大全』本、改曰『詩經大全序』、『書經大全序』。此即亂刻古書之一験。幸監本尚存、其謬亦易見爾。】相傳且二百年矣。惜乎、朱子定正之書、竟不得見於世、豈非此經之不幸也夫。

 

【日本語訳】

とはいえ、『大全』の本は朝廷が頒布したものであるので、大胆にも改めようとする者はいなかった。だが遂に監版『周易伝義大全』の本に拠りその中の程頤の伝を除き去り、程頤の次序を朱熹の次序とする本が現れた。【虚斎蔡清の『易経蒙引』では、ひそかに刊行された『易経本義』と言っている。今の〔『四書大全』の底本とされた〕『四書集注』の版本は、毎張十八行、毎行十七字、注はすべて小字で、『書集伝』『詩集伝』『礼記集説』もすべて同じ版式である。ところが、『周易本義』のみ毎張二十二行、毎行二十三字、『本義』の文はみな大字となっており、その他の経の版式と同じではなく、明らかに後来の人によって刊刻された本である。およそ『周易本義』中で「程伝備矣」と言っている箇所では、「伝曰」が付け加えられ、程頤の伝の文が引かれており、すべて今代の人の所為である。坊刻の勝手気ままに古書を改めることは、是非とも禁絶すべきであり、〔そのことを許容する〕学臣の責任である。朱子の「詩集伝序」、蔡仲黙の「書集伝序」は、今の南京刋『大全』本では、「詩経大全序」「書経大全序」に改められている。これこそ古書を乱して刊刻された一つの表れである。幸いにも監本がなお存しており、その誤りもまた知りやすいのである。】〔『周易伝義大全』が〕あい伝わること二百年にもなろうとしている。惜しいかな、朱子の定正の書が、結局、世に行われることはなかった。どうして『易』の不幸ではないと言えようか。

〔続く〕

 【解説】

 ここで言及されている『周易伝義大全』から程頤の『伝』を除いた本とは、成矩編『周易本義』のことである。このことは、前ブログ「『周易本義』と『原本周易本義』」で論じたので、参照のこと。