半知録

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『日知録』易篇訳「損其疾使遄有喜」

損其疾使遄有喜

〔要旨〕

不善を減らし善に従う者は、剛陽より尊ぶものはなく、速やかなるより貴ぶものはない。損の初九に「事を己めて遄かに往く」とあり、六四には「遄かならしめば喜び有り」とある。損の六四が速やかに行動できる理由は、その初九の剛陽に頼るからである。

 

〔原文〕 

損不善而從善者、莫尚乎剛、莫貴乎速。初九曰「己事遄往」、六四曰「使遄有喜」。四之所以能遄者、賴初之剛也。周公思兼三王以施四事、其有不合者、仰而思之、夜以繼日、幸而得之、坐以待旦。子路有聞、未之能行、惟恐有聞。其遄也至矣。文王之勤日昃、大禹之惜寸陰、皆是道也。君子進德修業、欲及時也。故爲政者、玩歳而愒日、則治不成、爲學者、日邁而月征、則身將老矣。

召公之戒成王曰、「宅新邑、肆惟王其疾敬德」。疾之爲言、遄之謂也。故曰「雞鳴而起、孳孳爲善」。

 

 

〔日本語訳〕 

不善を減らし善に従う者は、剛陽より尊ぶものはなく、速やかなるより貴ぶものはない。損の初九に「余計な事をやめて速やかに往く」とあり、六四には「速やかにすれば喜びがある」とある。損の六四が速やかに行動できる理由は、その初九の剛陽に頼るからである。周公は夏・殷・周の三代の王を兼ねてかれらが行った四事を施そうと考えたが、時代に合わないものがあれば、天を仰いで思慮をかさね、夜でも考え続け、さいわいにしてよい考えを思いつくと、ただちに実行しようと夜があけるのを待ちかまえたのであった。子路は教えを聞いて、まだそれを実践できないうちは、さらなる教えを聞くことを恐れた。これらは、速やかであろうとする極致である。文王が一日中休まず務め、禹がわずかな時間でも惜しまなかったのは、みな道に則した在り方である。君子が徳を進めて事を修めるのは、しかるべき時に間に合うように心がけるためである。それゆえ政を行う者が年月をもてあそび日をむだにすれば、治めることはできず、学をなす者が月日だけがいたずらに過ぎ去れば、身はすぐに老いてしまう。

 召公が成王を戒めて言った、「新邑にいて、今、どうか疾(すみ)やかに事を行い徳を重んじくださいませ」と。ここの「疾」という言葉は、速やかという意味である。それゆえ「一番どりの鳴き声で起き、せっせと怠らずに善をなす」と言うのだ。