半知録

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『日知録』易篇訳「凡易之情」

凡易之情

 

【原文】

愛惡相攻、遠近相取、情僞相感、人心之至變也。於何知之。以其辭知之。「將叛者其辭慙、中心疑者其辭枝。吉人之辭寡、躁人之辭多。誣善之人其辭游、失其守者其辭屈」。「聽其言也、觀其眸子、人焉廋哉」。是以聖人設卦、以盡情僞。夫誠於中、必形於外、君子之所以知人也。百物而爲之備、使民知神姦、先王之所以鑄鼎也。故曰「作『易』者、其有憂患乎」。周身之防、御物之智、其全於是矣。

【日本語訳】

愛憎がせめぎ合い、遠近が取り合い、真情と虚偽が感じ合うのは、人心のまことの変化である。何においてこのことを知るか。その言葉によって知れる。(繋辞伝に)「まさに叛こうとする者はその言葉には恥じらいが生じ、心中で疑念を抱く者はその言葉にはつじつまが合わないところが出てくる。りっぱな人の言葉は少ないが、軽率な人の言葉は多い。善人を装う人の言葉はうわついたものになり、心のよりどころを失ってしまった者の言葉は屈折している」。(『孟子』に)「その言葉を聞き、その瞳を見れば、人はどうして心の中を隠しきれようか」とある。そのことから聖人は卦を設けて、物事の真情や虚偽を表し尽くしたである。心の中を誠にして、必ず外面を形づくるのは、君子が人というものを知っているからである。鬼神百物の文様を彫って災厄に備え、民に神霊や姦怪を知らしめたのは、先王が鼎を鋳した所以である。それゆえ〔繋辞伝に〕「『易』を作る者は、憂患があったのであろうか」とあるのである。身の周りのことを慮り憂患を防ぐこと、物事を制御するための知恵、それはここに完全に備わっている。