半知録

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「易」

『日知録』易篇訳「改命吉」

改命吉 〔要旨〕 革の九四は、諸侯が天子の位に進もうとする、湯武革命を表した爻である。ただ湯王や武王は武力を使ってまで討伐したことに悔いがったが、天下は湯王や武王を指示した。そのことから、その爻辞に「悔い亡び、命を改むるは吉」とあるのである…

『日知録』易篇訳「巳日」

巳日 〔要旨〕 革にみえる「己日」は、十干の「己」の意味である。「己」は、十干の中間にあり、まさに変化しようとする時にあたる。さらに「己」の次の庚は、更めるという意味がある。革の卦辞「己日乃孚」とは、天下の物事は己日の半ばを過ぎてまさに変化…

『日知録』易篇訳「以杞包瓜」

以杞包瓜 〔要旨〕 姤の一陰が一番下にあるのは、瓜が生じ始めて、蔓を延ばして上に及ぼうとするようなものである。姤九五爻辞「杞を以て瓜を包む」とは、杞(おうち)を植えて、瓜の蔓が上に及ぼうとすることを防ぐことを言ったものである。 〔原文〕 劉昭…

『日知録』易篇訳「包无魚」

包无魚 〔要旨〕 「魚」は民を喩えられる。魚が逆流して上るのは、民が君主に反抗の気持ちが起こった表れである。姤九四爻辞「包无魚、起凶」とは、そのことを述べたものである。 〔原文〕 國猶水也、民猶魚也。幽王之詩曰、「魚在于沼。亦匪克樂。濳雖伏矣…

『日知録』易篇訳「姤」

姤 〔要旨〕 天下は、ひとたび治まればまた乱れる。邪説の起こることと世の浮き沈みとは、聖人でも除くことはできない。姤の「金柅に繫ぐは、柔道牽けばなり」は、そのことを述べたものである。 〔原文〕 天下之生久矣。一治一亂、盛治之極而亂萌焉。此一陰…

『日知録』易篇訳「利用為依遷國」

利用為依遷國 〔要旨〕 益六四爻辞の「用て依るところを為し國を遷すに利あり」とは、安定した国でも有事の国でも、臣下が公正な判断で君主に告げたことにもとづき国を遷すことに利益があるということ。 〔原文〕 在無事之國而遷、晉從韓子之言而遷於新田是…

『日知録』易篇訳「上九弗損益之」

上九弗損益之 〔要旨〕 君子が適切な方策を行えば、なにも失うこともなく民の生活を厚くすることができる。損上九爻辞の「損せずして之を益す」とはそのことを言ったものである。 〔原文〕 有天下而欲厚民之生、正民之德、豈必自損以益人哉。不違農時、榖不…

『日知録』易篇訳「損其疾使遄有喜」

損其疾使遄有喜 〔要旨〕 不善を減らし善に従う者は、剛陽より尊ぶものはなく、速やかなるより貴ぶものはない。損の初九に「事を己めて遄かに往く」とあり、六四には「遄かならしめば喜び有り」とある。損の六四が速やかに行動できる理由は、その初九の剛陽…

『日知録』易篇訳「有孚于小人」

有孚于小人 〔要旨〕 君子は、小人のすべてを見通せ、惑わされることなく従わせることができる。それゆえ小人を心服させるのである。解の六五爻辞「小人に孚有り」とは、そのことを言ったものである。 〔原文〕 君子之於小人也、有知人則哲之明、有去邪勿疑…

『日知録』易篇訳「罔孚裕无咎」

罔孚裕无咎 〔要旨〕 晋初六の爻辞の「孚罔なきも裕にすれば咎无し」とは、どんなに役職にあっても、その職責を全うすれば咎はないということである。もし職責を全うできなければ去る。 〔原文〕 君子信而後諫、未信則以爲謗已也。而況初之居下位、未命於朝…

『日知録』易篇訳「天在山中」

天在山中 〔要旨〕 大畜の象伝に「天が山中にある」というのは、地より上は「天」とされるからである。 〔原文〕 張湛注列子曰、自地以上皆天也。故曰天在山中。 〔日本語訳〕 張湛が『列子』に注釈して、「平地より上はみな天である」と言っている。それゆ…

『日知録』易篇訳「不耕穫不菑畬」

不耕穫不菑畬 〔要旨〕 无妄の六二爻辞に「不耕獲、不菑畬」とあるのは、耕作かつ開墾は、前人がすでに行ったことからである。その象伝に「不耕獲、未富也」とあるのは、前人が行ったことに依って自分が成し遂げたことは多くないからである。 〔原文〕 楊氏…

『日知録』易篇訳「不遠復」

不遠復 〔要旨〕 復の初九は、動くことの萌芽である。それ以前は、喜怒哀楽といった感情はいまだ現れていない。それゆえ「復において天地の心が見られる」とあるのである。顏回は中庸であろうとし、それを復卦に選び求めた。そうして八つ当たりをせず、過ち…

『日知録』易篇訳「童觀」

童觀 〔要旨〕 童児は、師の教えを受けなければ、何事も完全には習得できない。それでも、観の初六に「童観、小人咎无し」とあるのは、大人には大人の道、小人には小人の道があるからである。「君子吝」ともあるのは、君子が小人の道を行うのは恥ずべきこと…

『日知録』易篇訳「成有渝无咎」

成有渝无咎 〔要旨〕 豫上六の爻辞に「成れども渝ふる有れば、咎无し」とあるのは、人は過ちを犯しても初めから改めることができず、その過ちを反省しないことを知らしめるためである。 〔原文〕 昔穆王欲肆其心、周行天下、將皆必有車轍馬迹焉、祭公謀父作…

『日知録』易篇訳「自邑告命」

自邑告命 〔要旨〕 邑とは、人主が居る場所である。『易』で言う「邑」は、すべて内政のことに関係している。 〔原文〕 人主所居謂之邑。『詩』曰「商邑翼翼、四方之極」、『書』曰「惟尹躬先見於西邑夏」、曰「惟臣附於大邑周」、曰「作新大邑於東國洛」、…

『日知録』易篇訳「武人爲於大君」

武人爲於大君 〔要旨〕 「武人為於大君」は、「武人は大君と為る」ではなく、「武人は大君と為れ」と読むべきだとする。履六三の武人は、才能はなくとも志は高く、行動に移そうとするが、成就しないので、履六三には「虎の尾を履み、人を咥ひ、凶」とある。…

『日知録』易篇訳「既雨既處」

既雨既處 〔要旨〕 『易』での陽が唱導して陰が従うという陰陽の義は、夫婦関係では成り立たない。小畜の爻辞がそれを表している。その爻辞では、とりわけ婦が夫を制し和ならざる状態の場合は言及するが、夫婦が正しく和している状態の場合は言及していない…

『日知録』易篇訳「師出以律」

師出以律 〔要旨〕 師の初九爻辞「師出以律」の「律」とは、殷の湯王や周の武王のような仁義を心構えとし、斉の桓公や晋の文公のような節制を用途とする意味である。『易』の卦辞で言う「貞(正しさ)」に相当する。 〔原文〕 以湯・武之仁義為心、以桓・文…

『日知録』易篇訳「九二君徳」

九二君徳 〔要旨〕 乾の九二が、臣下の位にも関わらず、君徳があるとされるのは、人臣は、まず人君となる徳を保持して、そうして理想的な君主となりえるからである。 〔原文〕 爲人臣者、必先具有人君之德、而後可以堯・舜其君、故伊尹之言曰、「惟尹躬暨湯…

『日知録』易篇訳「六爻言位」

六爻言位 〔要旨〕 易伝にみえる「位」には、二つの意義がある。一つは人の貴賎の位、もう一つは六爻の位置を表す位である。「位」を一つの意義で解釈しようとしても、牽強付会に陥るだけである。言葉は一つの事柄だけを表すというわけではなく、それぞれに…

『日知録』易篇訳「互體」

互體 〔要旨〕 互体説は、二爻より四爻に至るまで、あるいは三爻より五爻に至るまでで一卦をなす説である。それは、すでに『春秋左氏伝』にみえている。しかし、孔子は互体説について言及しておらず、後人が互体説の根拠として繋辞伝の「雑物撰徳」や「二与…

『日知録』易篇訳「卦變」

卦變 〔要旨〕 卦変説は、孔子に始まるわけではなく、周公の爻辞にすでにみえている。卦変説は、乾・坤からの変化を基礎とするのであり、十二消息卦の変化に拠るのではない。 〔原文〕 卦變之説、不始於孔子、周公繫損之六三已言之矣、曰、「三人行則損一人…

『日知録』易篇訳「卦爻外無別象」

卦爻外無別象 〔要旨〕 文王と周公は、卦の形象がもつ意義を観察して占辞を書き足した。孔子は伝を作ったが、決して一象も増設しなかった。しかし、荀爽・虞翻の徒が、本来の卦象の他に新たな象を生み出し、『易』の大旨を乱した。王弼がそうした余計なもの…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」⑦

【要旨】 科挙の受験生たちは大義を理解せず暗誦するばかり、その出題は伝を主として経を客とし、射覆のような有様となっている現状を、五経は亡んでしまったと嘆く。 【原文】 秦以焚書而五經亡、本朝以取士而五經亡。今之爲科擧之學者、大率皆帖括熟爛之言…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」⑥

【要旨】 象伝に「亦」とあるのは、上文の伝を承けたのだとする説を論じる。 【原文】 程『傳』雖用輔嗣本、亦言其非古易。咸九三「其股、亦不處也」、傳曰、「云『亦』者、蓋象辭本不與易相比、自作一處、故諸爻之象辭意有相續者。此言亦者、承上爻辭也」。…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」⑤

【要旨】 経と伝とが渾然一体となる過程を論じ、今の『易』の乾卦の構成が費直が雑えた形で、坤卦以下の構成が鄭玄が連ねた形だと推す。 【原文】 朱子「記嵩山晁氏卦爻彖象説」謂「古經始變於費氏、而卒大亂於王弼」、此據孔氏『正義』曰、「夫子所作象辭、…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」④

【要旨】 『周易伝義大全』の程頤の『易伝』を除き去り、朱熹の『本義』を 残した本が現れた。しかし、朱熹が定めた古形がまた錯乱した状態に戻った。それら本が用いられ、朱熹が定めた古文『易』の形が世に行われていない現状を嘆く。 【原文】 而『大全』…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」③

【要旨】 『周易伝義大全』の朱熹の『本義』との異動、程頤の『易伝』の影響を論じる。後世の人士は、専ら『本義』で学び、程頤の『易伝』を嫌った。 【原文】 「彖即文王所繫之辭傳者、孔子所以釋經之辭也。後凡言伝放此」、此乃彖上傳條下義。今乃削「彖上…

『日知録』易篇訳「朱子周易本義」②

【要旨】 費直・鄭玄・王弼によって、伝が経の卦爻の下に附されるようになり、乱されてしまった。程頤の『周易程氏伝』ではこの形によったが、朱熹の『周易本義』に至って古形に帰った。しかし、明朝の『易経大全』では、『周易本義』の巻次が切り離され、朱…